第一章 緑衣の騎士への招待状

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第一章 緑衣の騎士への招待状

一  夕刻の玄関広間。  壁にもたれかかり、目を閉じていた少女は、そこでハッと目を開けた。  今日の自分の働きをつらつらと回想していた少女だったが、失敗しかけた記憶を呼び戻してしまい、少女は独り首をすくめた。  ちょっぴり苦い息を洩らしつつ、彼女は辺りを見回す。  鏡のように磨き上げられた、大理石の広間。  奥まった壁際には、雛を抱擁する親鳥の双翼のような一対の階段が、二階へ延びる優美な弧を描く。  左右の壁に点されたオレンジの灯火を除き、この広間に装飾品は一切ない。  床も壁も、白っぽい天然の縞模様だけが覆っている。  だがその素朴さが、却ってこの広間の荘厳さを引き立てる。  そんなつるつるの床と壁に、年頃の少女の姿が映り込んでいる。  百合の花のように白く清楚な法衣に、肩から下げた質素なバッグ。  そして、一本に編み込んだ胸元のプラチナブロンドの髪と、均整の取れた目鼻立ちの顔。  新緑色のつぶらな瞳が、無人の玄関広間を見渡す。  ここは、幾世代にも渡って彼女の一族をはぐくんできた、古い館。  今この広い館に住むのは少女の両親だけで、あとは来客が時折滞在するくらいのものだ。     
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