第一章 緑衣の騎士への招待状

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 父親は、まだ勤めから戻る刻限ではなく、活発な母親はいつも不在がち。  だから、一日の仕事を終えて帰宅した少女を出迎える者は、今日も誰もおらず、館は実に静かだ。  ふう、と小さく吐息をつき、彼女は自分が逆さに映る床に視線を落とした。  心地よい疲れに満ちた自分の顔が、そこに見える。  今日も何とか仕事を終えた、そんな安心感が一杯に漂う顔だ。  ただ一つ、古代の粘土板を壊しかけた、大失敗の陰を除いては。  はあ、と彼女がため息をついたその時、館の奥から苛立たしげな声が響いてきた。  聞き慣れた青年の声だ。 「待て、エルマン!」  無人だとばかり思っていた彼女は、びくんと撥ねるように壁から離れた。    声の主のものらしい足音が、かつかつと館の奥から玄関広間へと向かってくる。  が、靴音はもう一つ聞こえてくるようだ。それを裏打ちするように、別な若者の声も近付いてくる。 「いやいや、御用も済みました。長居は失礼ですから、ローサイト卿。僕はこれにてお暇(いとま)を」  妙に調子のいい、明るい若者の声だ。 「招待状は、確かにお渡ししましたからね、ローサイト卿。お返事は、行動にてお示しを」  そしてすぐに、この玄関広間へ二人の若い男が踏み入ってきた。    片方は、少女もよく知っている青年だ。     
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