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そう、ネウィルは、迷いの只中に立ち尽くしている。
だが、メルの気持ちはとっくに決まっていた。
……メルを危険から遠ざけようという騎士の気遣いは、心の底から嬉しい。
それこそ身震いするほどに。
それは事実だ。
でも、今この機会を逃したら、もう二度と訪れてこないかも知れない。
メルが、ネウィルの役に立てる日が。
立ち尽くしたまま、メルはネウィルのたった一言を黙して待つ。
だが幾分経とうとも、目の前の憂える騎士は、口元に手を当てたまま、言葉を綴ろうとはしない。
胸の中の待ち遠しさが、わずかずつ焦りと不安、それに不満に置き換えられていくのが、メル自身で分かってしまう。
じりじりと辛く灼けつくメルの胸の底に、意図に反した疑念が澱み始めた時だった。
長い静寂の果てに、ネウィルがおもむろに顔を上げた。
「……いや、やはりお前の他にはありえない、メルローチェ」
つぶやくようにそう洩らし、騎士がゆっくりと安楽椅子から立ち上がった。
すっくと背筋を伸ばして立った彼の目には、もう一点の曇りも見えない。
どこまでも透明で、青く澄み切った蒼穹のような瞳だ。
何か吹っ切れたように、涼やかな光を取り戻している。
……ああ、いつものネウィルだ。間違いない。
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