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心の底から湧き上がった深い安堵が、メルを侵食する赤黒い感情を一掃した。
清明な息をついて、ばくばく踊る胸をそっと押さえたメル。
その彼女を、ネウィルが見つめる。
例によって、感情の起伏を悟らせないかのような騎士の眼差しだが、わずかにメルへ差し向けられたネウィルの右手が、彼の意図を暗示している。
ネウィルが、湧水を感じさせる清廉な口調で静かに問う。
「俺に、力を貸してくれ、メルローチェ。神代レテ語を読めるのは、お前だけだ。俺と一緒に、ロアル城市まで来てはくれないか?」
そう、まさにメルが、じっと待っていた言葉だ。
……だが、この言葉をネウィルが口にするまでの、あの長過ぎる逡巡。
あれは何だったのだろう?
本当に、メルの身を案じていただけなのか?
でもそんなことは、針先もないほどの、ほんの些細な引っかかりに過ぎない。
メルは自分にそう言い聞かせ、頭にかかった蜘蛛の巣を払うかのように、首を横に振った。
そしてネウィルを正面から見上げ、深く、大きくうなずく。
「うん。わたしで、良かったら。わたし、一生懸命、頑張るから」
そこで母テオファナが、パンと手を打った。
パッと立ち上がった母親は、喜色満面にメルと甥ネウィルを交互に見遣る。
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