第一章 緑衣の騎士への招待状

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 今までも、メルの旅立ちに居合わせたことは一度もない。  いつものこととは言え、父の顔が見えないのはやっぱり残念だ。  一滴の不満と、何か言いようのない申し訳のなさを覚え、メルは彼誰刻の虚空に吐息をつく。  そんなメルを見ながら、母テオファナが、ほほほ、と軽く笑った。 「相変わらず、あのひとは気が小さいこと。あなたのお見送りで泣くのが怖くて、出て来られないなんて。本当、困ったお父さまね、メルローチェ」  母が、ふふっと苦笑めいた息を洩らした。メルの気持ちも、幾らか軽くなる。 「大丈夫ですよ。あなたの留守の間の中央万神殿は、あのひとが上手く取り回して下さるから。あなたは思うさま、全力でやっておいでなさい」  メルを真っ直ぐに見つめ、母が力強くうなずきかけてくる。  メルも、書記総長たる父への深い感謝を胸に、深くうなずいて応える。 「うん。行ってきます、お母さま。お父さまに、よろしく伝えてね」 「お任せなさいな。さあ、準備は万端。立派よ、メルローチェ」  母の言葉を受けて、メルは改めて自分の姿を見回してみる。  生地の厚い純白の法衣と、その上から装着した白い胸甲。  どことなく卵を思わせる、優美で女性的なこの鎧は、引退冒険者の母から譲り受けたものだ。     
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