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見た目に反して驚くほど頑丈で、しかもあり得ないほど軽い。
金属や革ではなく、何かを焼成して作られているらしい。
丸い肩当てや胸元に光る閃緑のエナメルが、法衣の裾を飾る緑の刺繍と相まって、爽やかな印象を添えてくれる。
細い紐でたすき掛けにしているのは、使い慣れた銀枠の小さな石板と、銀軸の滑石。
ロクス家に代々受け継がれてきた筆記具だ。
日用品の域こそ出ないものの、書記聖術を行使するメルにとっては、剣よりも心強い武器になる。
傍目には立派な冒険者に映るが、何度この姿に身支度しても、メル自身にはどうにもしっくりこない。
何となく頼りない気分で小首を傾げるばかりの彼女に、母テオファナが眉根を寄せて檄を飛ばした。
「ほらほら! しゃんとなさいな、メルローチェ。あなたは“翡翠の龍姫士”テオファナ=ブラン=ロクスと、中央万神殿(ラ・パンテオン)の書記総長マルクセス=ラ・パンテオン=ロクスの娘なのよ。もっと堂々と、胸を張りなさい」
じれったそうにそう口にして、母がメルを真っ直ぐに見つめる。
「あなたに流れる血の半分は、不屈の緑龍(グリーン・ドラゴン)のもの、もう半分は叡智の白耀龍(パール・ドラゴン)のもの。もっと自信をお持ちなさいな」
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