136人が本棚に入れています
本棚に追加
/559ページ
言い切った母が、二つのバッグを差し出した。
片方は防水布の質素なショルダーバッグ。
メルが探索の時に、いつも携行している物だ。
だがもう片方のハンドバッグは、メルも初めて見る。
「このハンドバッグは?」
ショルダーバッグを肩に下げながら、メルは受け取ったハンドバッグに目を落とす。
手の中のハンドバッグは、白い革の小さなものだ。
デザインは古風で、かなり使い込まれている。
だが、手入れはしっかりと行き届いているようだ。
母がくびれた腰に両手を当てて、思わせぶりな視線をメルに注ぐ。
「あなたがこれからお会いする銀龍女公は、いつ何を言い出すか分かりません。どうしたらいいのか本当に困ったら、そのバッグをお開けなさい。きっと役に立ってくれるでしょう」
「えっ? それって、どういう意味なの?」
怪訝な眼差しで、メルはハンドバッグと母親とを何度も見比べる。
だが、不敵で曖昧な母の微笑は、全く真意を読み取らせない。
……一体、お母さまは何を考えているのだろう?
剣士だった母テオファナは、探索で手に入れた戦利品を数え切れないほど持っている。
そんな母親がもったいぶってメルに持たせるからには、これも何か曰くのある一品なのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!