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少女の戸惑いの視線が、騎士の愁いを帯びた群青の目と重なった。
その途端、騎士の眼差しは不審の影が消え去り、いつもの涼やかさを取り戻した。
「おかえり、メルローチェ。今日も中央万神殿(ラ・パンテオン)での書記、ご苦労だった」
素っ気ないが、温かく響く騎士のねぎらいを受けて、この少女、メルローチェ=ラ・パンテオン=ロクスの胸中に、喜びがふつふつと湧き上がってくる。
仕事を終えて帰ったときに、誰かに温かく迎えられるのは、やっぱり嬉しい。
それが敬愛する相手なら、なおさらだ。
熱く上気した頬に意図せず手を当てて、メルローチェはこくこくとうなずいた。
「あ、えと、うん。ありがとう、ネウィル。ただいま……」
緊張して強張る唇から、まず挨拶を返した彼女。
何となく気恥ずかしくて、ネウィルの顔を正視できない。
この少女メルローチェは、この小さな街〝神殿集落”に鎮座する壮麗な大神殿、“中央万神殿”の書記として勤めている。
世界の全ての神々が一堂に祀られたその神殿で、彼女は祭儀の記録や聖典の保管管理、写本の作成、それに書記聖術の行使など、文書と関わる仕事に従事していた。
冷淡に映るが穏やかな騎士の顔をちらちら覗いながら、彼女が続けて言葉を繋ごうとした、その時だった。
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