137人が本棚に入れています
本棚に追加
/559ページ
ほとんど無感情に振る舞うネウィルを、ムッと口を尖らせたメルは軽く睨む。
……彼と一緒に集落の外に出るときは、何かいつもこのやり取りを繰り返している、気がする。
異性を乗せて飛ぶというのは、龍の一族では婚約も同然。
よく考えたら、これはもうスゴく重大なことなのに、ネウィルはいつもさらっと『乗るか?』などと聞いてくる。
もし、メルが本当に『うん! 乗せて!』と答えたら、ネウィルはどんな顔をするだろう?
ああ、でも、やっぱり言えない。
諦めと反発の吐息をつき、メルは母からててっと十歩離れた。
メルも騎士ネウィルと母テオファナから、充分な距離を置いた、その時。
直立不動の姿勢で立つネウィルの足元から、突然一陣の風が巻き起こった。
砂を巻き上げた旋風が、彼の体を覆い隠す。
法衣の裾がはたはたと捲れるほどの強い風に、メルは両目をぎゅっとつぶった。
すぐに風は止み、メルは堅く閉じた瞳をゆっくりと開いた。
あの騎士が立っていた場所に、彼の姿はない。
代わりに佇むのは、一頭の緑龍だ。
悍馬よりも二回りほど大きな体躯と、それを支える逞しい四肢。
指の先には、鋭い爪が光る。
背中には二枚の深緑の翼を備え、長い首に支えられた爬虫類めいた頭部には、立派な角がある。
最初のコメントを投稿しよう!