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口も大きく裂け、尖った牙が顔を覗かせているが、群青の大きな両目には、理知的で涼やかな光が宿る。
全身をエメラルドの鱗に覆われたその龍が、騎士ネウィルの声でメルを短く促す。
「龍気の準備を。メルローチェ」
無言でこくりとうなずき、メルは目を閉じた。
“人類の長兄”と称される龍は、他の人類とは大きく異なる特徴を幾つか備えている。
その一つが、“龍気”と呼ばれる特性だ。
魂の周囲に存在する霊質(エクトプラズム)を肉体の外側に物質化させることで、いわゆる“龍(ドラゴン)”に姿を変えられる。
目をつぶったメルは、自分がまとうべき龍気を脳裏に描いた。
――雪の結晶が覆うようにきめ細かく、ビロードのように滑らかな真珠色の龍。
流れるようなラインを描く背中には、薄桃色の双翼が生えている。
乳白色のまばゆい光の中で、そんな大きな龍の体の中に、自分の意識が融け入って、一つとなる――
自分の意識も体も大きく広がった、そんな感覚を得たメルは、ハッと目を開いた。
満足そうな母親が、自分を見上げているのが見える。
自分の目線が、これまでの倍近い位置にあるようだ。
母テオファナが、満面の笑みで何度もうなずく。
「素敵よ、メルローチェ。いつ見ても、あなたの龍気は美しいわ」
「えと、そ、そう?」
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