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あせあせと答えたメルが、頬に手を当てた。
その手は既にひとの物ではない。
真珠の光沢に覆われた、龍のものだ。
指先には象牙色の鋭い爪がある。
どうやら、龍の姿への変容は成功したようだ。
真珠の龍と化したメルに、緑龍姿のネウィルが群青色の視線を向けてきた。
彼は安堵感に満ちた様子を見せている。
「久々の龍気だが、大丈夫のようだな、メルローチェ。さあ、出発しようか」
それだけ言って、ネウィルが鮮やかな緑の翼を大きく広げた。
ゆっくりと、しかし力強く羽ばたくごとに、その体が宙へと浮いてゆく。
空へと向かう緑龍ネウィルを目で追いながら、メルも桜色も可憐な両翼を羽ばたかせた。
真珠色のメルの体が、少しずつ夜明け前の大空へと舞い上がる。
三階建ての軒端ほどの高さを保った緑龍が、メルを見下ろしてくる。
「人間(ホムス)の国々の上空を北北東へ向かう。一気に海岸まで飛ぶぞ」
「うんっ」
羽ばたきながら静止して待つネウィルの位置まで上昇しつつ、メルは眼下に立つ母親に声をかける。
「行ってきます、お母さま! 絶対、無事に帰ってくるからっ!」
笑顔の母が、無言で手を振っている。
メルも大きくうなずいて母に応え、北北東へと首を向けた。
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