第二章 海の向こうへ

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 白金の太陽は、天頂から少し西に傾いた辺りで煌々と輝く。  透明な陽光を浴びる午後の大地も、大陸の南部から北北東へ向かうメルにさまざまな移り変わりを見せてくれた。  ――広大な湿地帯に、鬱蒼とした森林と原野。  それとは対照的な、規則正しく区切られた地表の点描は、人間(ホムス)が営む田園。  そうかと思えば、灰色の岩が作り出す山地と、薄く煙を吐く火山も見えていた。  その麓にぽつぽつと窪んで見えた斑点は、頑小人(ドヴェルガン)たちの鉱床か――  そんな変化に富んだ下界の景観は、メルを飽きさせることなく、十時間もの飛行を支えてくれた。  ふと、メルは真横を飛ぶネウィルをチラ見した。  緑龍の鋭い群青の目は、ずっと前方を見据えている。  彼は視線をじっと固定したまま、メルに告げる。 「もうすぐ海が見えてくるだろう。あと三時間半の辛抱だな」 「海? 海まで飛ぶのは初めて」  これまで幾度か、数時間の飛行は経験したメルだが、海への飛行は未経験だ。  仄かな興奮を覚えつつ、彼女はネウィルに目を向けた。 「ねえ、ネウィル。今日の目的地はこの大陸の北の海岸だったよね? ネウィルが知ってる場所?」  メルの問いに、ネウィルが素っ気ない調子で軽くうなずく。     
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