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「そうだ。街道筋の小さな漁村だが、由緒ある落ち着いた村だ。俺は気に入っているがな。この大陸の北岸を探索する必要があるときは、そのバグラスの小屋を根城にしている」
「えっ? ネウィル、におうちがあるの!?」
予測を超えたネウィルの言葉に、メルの声が裏返った。
ぴくんと耳聡く反応した彼女を一瞥して、苦笑交じりのネウィルが首をすくめた。
「二、三日程度、雨風を凌ぐだけの代物だ。馬小屋同然のあばら家に過ぎん」
メルは小さく唸る。
……ネウィルが暮らす部屋、スゴい気になる。
一体どんな部屋で、何が置いてあるのか?
その部屋に独りでいる彼は、何をして過ごすんだろう?
つい妄想、いや空想を膨らませるメルに、ネウィルが呆れた調子で釘を刺してきた。
「言っておくが、俺の小屋には寄らないからな」
「えっ? どうして」
つい不満一杯のメルの声に、ネウィルは目線を前方から動かさないまま、無感情に言い渡す。
「今は馬小屋より汚いぞ。しばらく使っていないし、他人を通す事など考えてもいない」
お掃除ならわたしがするのに、などと思いつつも言葉には出せないメルだった。
ネウィルの部屋には興味津々だが、バグラスの村へは遊びに行くわけではない。
それにあんまりつべこべ口にして、彼の印象が悪くなるのもヤダ。
メルは、つまらない吐息を一つ、気流の中に吹き遣った。
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