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それまで口を閉じていた黒い若者が、ずいとメルローチェの前に進み出た。
「これはこれは」
「ひゃっ!?」
一声上げてのけ反った彼女に構うことなく、この若者は悪戯っぽいトパーズの視線をネウィルに移した。
「こちらの愛らしいご令嬢は、どなたですか? ローサイト卿。“緑龍(グリーンドラゴン)”のあなたとはご昵懇のご様子ですが、どのようなご関係で……」
『愛らしい』などと評されて、思わず顔の火照ったメルローチェ。
おまけに、ネウィルと『ご昵懇』とか『ご関係』とか連発されて、胸のどきどきが止まらない彼女だった。
そんな彼女をよそに、憮然と口元を曲げたネウィルが、突き放したような口調で若者に告げる。
「その方は、メルローチェ=ラ・パンテオン=ロクス殿。中央万神殿(ラ・パンテオン)の書記総長、ロクス殿のご息女だ。今はメルローチェ殿も、中央万神殿の有能な書記の一人。俺の従妹の“白耀龍(パール・ドラゴン)”、だがな」
ネウィルの口ぶりは冷淡だが、言葉は丁寧だ。
名立たる騎士に『メルローチェ殿』などと敬語で呼ばれ、おまけに『有能』とまで言われてしまった。
メルローチェは熱く火照った顔を静かに伏せた。
ネウィルの過分な評価に、何か畏れ多い気分に襲われた彼女だった。
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