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第二章 海の向こうへ
一
「はぁー……、すっごくいい気持ち」
午後の蒼穹を翔ける真珠の龍、メルの口から陽気に言葉が洩れた。
地表はるか上空、刷毛で撫でたような白い筋雲の間に、プラチナの太陽が輝く。
薄い雲を透かした柔らかな日差しが、メルの体を心地よく温めてくれる。
翼に受ける気流も穏やかで、ゆったりと風に身を任せていれば、目指す北北東へと運んでくれる。
航路はのどかで安全、おまけに憧れの騎士もすぐそばにいる。
否応もなく、メルの気分は浮付いてくる。
が、メルは、ぶんぶんと頭を振った。
……いや、今回の旅は、ネウィルを助けるためのものなのだから、ヘンなドジは踏めない。
しっかりしなきゃ。
キッと口元を締め直すメルの横に、同じ気流に乗る緑龍ネウィルが、ふわりと寄ってきた。
「大丈夫か? メルローチェ。安全な気流だとは言え、休憩もなくもう十時間以上飛んでいるからな」
「え、えと、ありがとう」
ネウィルの気遣いに、メルの胸がどくんと躍る。
どぎまぎしつつも、首を真っ直ぐ前へと向けたまま、彼女は答える。
「あ、でも大丈夫。今度の飛行は、景色がすごく綺麗だもん」
メルは目をくるりと回して、周囲を改めて眺めてみる。
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