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ガーゼを当てて、明里さんが包帯を巻いて、濡れたタオルで全身を拭いてやると、子猫は綺麗なグレーの女の子だった。
体温の低下もあったので、ドライヤーで濡れた毛を乾かし、手袋にお湯を入れた即席の湯たんぽで体を温めた。
口元に少しだけ酸素も流した。
小さな呼吸を繰り返す子猫を二人で見つめる。
元気になって欲しい。
でも元気になったらどうしよう。
「藤野さんの住んでいるとこは、猫、飼えないよね?」
「はい、ペット禁止の賃貸マンションなんです……。先生の所は?」
「うちは一軒家だから大丈夫なんだけど、当直や出張で帰れない事が多いから……」
一瞬の沈黙の後、僕の方に振り返った明里さんが、僕の目をじっと見つめて、口を開いた。
「じゃあ……、その帰れない時は私が見に行きますから、先生のところで飼ってあげてもらえませんか? 私、この子をちゃんと育てたい。せっかくこの世に生まれてきたのだから」
ん? それって、もしかして……。
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