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「わたくし、株式会社ネクシスの佐藤と申しますが、先生の税金対策にマンションの購入を……」
なんだ、営業の電話なのか、こんな時間に……。
僕は即座に「結構です」と答え、苛立ちと安堵が入り混じる大きなため息をついた。
それでも受話器の向こうで話し続ける佐藤。
僕は「今それどころじゃないんです」そう言い捨てて電話を叩き切った。
気付くと、カンコが心配そうに僕を見上げている。
「大丈夫だよ」
そう声をかけると、カンコが自分の頬を僕の脛に擦りつけた。
「カンコ、僕を気遣ってくれているのか?」
僕がそう言ってカンコを抱き上げようと手を伸ばすと、彼女はするりとその手をすり抜け、今度は横の柱に体を擦り付けた。
見ると床に置かれたエサ皿が空っぽになっている。
「なんだ、餌が欲しかっただけなのか」
僕がカリカリのキャットフードを皿に入れてやると、カンコは入れ終わるのを待たずに食べ始めた。
一心に食べるその姿をぼんやりと眺めながら考えた。
冷静に考えてみれば、なんてことはなく、ただたんに友達と時間も忘れて話し込んでいるだけなのかもしれない。
スマートフォンは充電が切れてしまっただけなのだろう。
きっとそうだ。
僕は看護師の小林さんに電話をかけてみる事にした。
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