第三章 捜査本部

7/13
155人が本棚に入れています
本棚に追加
/433ページ
「南洋市は昨今、凶悪犯罪が激減し帳場が立つような重大な事案は、本年度に至っては今回が初である。本年度はホワイトベアーズの躍進により市民の顔も明るく、街は今、活況を呈しておる。そんな中で我々としては ……」 課長の演説は続く。 ・・・クソッ ! いつまでくだらん話を … ひな壇の前では、渡利管理官が3人の捜査班長に指示を出していた。 特別捜査本部に配属された刑事は、2名ずつの組に分けられ、各組はできるだけ本庁の刑事と所轄署の刑事がペアになるように割り振られる。 重大事件の捜査経験が豊富な本庁の刑事と、土地鑑のある所轄署の刑事のペアが理想的だと考えられているためだ。 捜査員には相棒を選ぶ選択権はなく、割り振りは特捜本部の上層部が決める。 刑事ドラマなんかでは、本庁の刑事と所轄署の刑事が非常に険悪な関係であるように描かれる事が多いが、実際にはそのような極端なことはまずない。 異動が頻繁な警察社会では、本庁と所轄を行き来する事も珍しくないので、帳場は元同僚や顔見知りの再会の場でもあり、日頃同じ辛苦を舐めている仲間意識も相俟って、元々協調性が高いのだ。 だいたい本庁の捜査一課にエリート意識なんてない。 何故なら、本庁には上を見ればキリがないほどのキャリアがゴロゴロしているのだから、どちらかと言えば劣等感の方が強いだろう。 本庁の捜査一課の刑事にあるのは、犯人を追う執念だけは誰にも負けないというプライドだけだ。 捜査員は、敷鑑、地取り、ナシ割りの三つの捜査班に割り振られる。 敷鑑とは、被害者の人間関係を洗い出し、事件の動機を持つ関係者を探し出す作業である。 事件は、金銭、怨恨、痴情のいずれかが起因して発生する事が多い為、これらの動機を持つ人間を探し出す作業が重要になる。 地取りとは、現場周辺の住宅やオフィスなどを回り、不審者の目撃情報、被害者の争う声など、事件の手がかりとなる情報を聞きまわる作業である。 ナシ割り(証拠品)は、遺留品や凶器の購入者を調べ、その中から容疑者を探し出す作業だ。 犯人にたどり着く可能性の高い順序は、一般的には、敷鑑、地取り、ナシ割りの順となる。 そのため、基本的には敷鑑捜査に老練な古参刑事たちが配備されることになるが、金銭、怨恨、痴情のセンの薄い今回の場合は、地取りの方により多くの力がそそがれるであろう。 特に現場付近の防犯カメラや近隣住民の交通車輌に搭載されたドライブレコーダーを洗う作業が重視されるはずだ。 スクリーンには被害者が映し出されたままだった。 健康的な笑顔。 身長163センチ、体重47キロ。 14歳女子にしてはずいぶん大きい。 それがセッターか。 きっと攻撃的なセッターなんだろうな。 そう言えば …… ポイントガードでチームの司令塔 …… 確か …… 森川舞 …さんっていったか ? そう言えば …… 〜 従兄妹は水泳部でね。県大会に出場するようなすごい子だったんだ 〜 助教授(・・・)の慟哭が甦った。 そして …… 杉村菜都さんも水泳部で活躍していた。 ヤツは健康的な子を狙う傾向があるのか ? ・・・クソ野郎っ ! ・・・ん ? 今度は蓮見本部長が巻本刑事部長に耳打ちしていた。 ・・・なんだ ? 二人揃って俺を見た。 渡利管理官が巻本刑事部長に呼ばれた。 刑事部長がまた俺を見た。 ・・・ 管理官に何か言っている。 ・・・ 思い出した ! 間違いない。 俺は、本部室を飛び出した。
/433ページ

最初のコメントを投稿しよう!