第二章 野球バカ

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【高校一年・冬】    冬。  俺は集団リンチに遭った。  相手が誰だったのか、何人だったのかも分からなかった。  恐らく先輩達。  二年か ? それとも引退した三年か? 両方か ?  俺は寮に入っていた。  自転車通学だった。  部活が終わり、寮に帰って来た直後、暗闇の自転車置き場で襲われた。  自転車からおりた瞬間、頭に袋が被せられた。  そのまま転がされ、ボコボコに蹴られた。  誰も声を発する事もなく、ただ数人の息遣いだけが聞こえた。  俺はただじっと体を丸めて、息遣いを聞いていた。  背中や腰、臀部にひどい打撲や裂傷を負ったが、顔、腕、足などはほぼ無傷だった。  俺に恨みはあるが、問題になっては困る。  そんな妙に分別臭い殴り方だった。  犯人の心当たりは腐るほどあった。  俺を嫌っていない先輩なんて、一人としていなかったであろう。  今思えば、グランドでの俺は、先輩を呼び捨てにし、味方のミスを罵倒し、エラーをしたチームメイトを軽蔑するような態度を取っていたように思う。  俺なりに必死だったのだが・・・  ただ、お山の大将気分、天狗になっていたのも確かだ。  襲われた事は、誰にも言わなかった。  野球部の不祥事発覚を恐れたとか、そんな事を気にしていたわけではない。  カッコ悪いからだ。  ボコされたなんてみっともなくて、人に言えなかった。  ただ、それだけだ。  殴られた事も大して気にしていなかった。  シーズンオフに入っていたので、練習はウエートトレーニング、走り込みが主だった。 だからなんだかんだ理由をつけて、適当にサボった。  投げ込みも肩の休ませる為、と言ってやらなかった。    殴られたケガはそうやって病院にも行かず、市販の湿布だけで治した。  また襲ってきたら、今度こそやり返してやる。  次はいつ来る?  おれは気を張って過ごしていた。  そのうち体がおかしくなっていた。  力が入らない。  やる気が起きない。  体が先に弱音を吐いた。  実は強がっていただけだった。  心は折れていたのだ。  またいつやられてもおかしくない。  誰がやったかも分かっていない。  暗闇で突然、頭に袋を被せられてボコボコに殴られる。  ・・・いつ来る    ・・・どこで来る  俺は怖くて怖くて堪らなかったのだ。 
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