第二章 野球バカ

7/18
156人が本棚に入れています
本棚に追加
/433ページ
   いつの日か、練習後に二人に聞いたことがあった。 「お前ら部活が終わってから、いつも河川敷で自主トレやってるだろう」 「やってるよ。ナックル投げてるんだ」  杉村は嬉しそうにドヤ顔を作った。 「あんなもん無理だろ」  俺は杉村の言葉を半分以上、冗談として聞いた。 「ほぼ、完成してるよ。まだコントロールが全然だけど」 「マジか?」 「マジ。モノに出来るかどうか。今、一番大事なところ」   「そんな大事な時に自主トレサボって、俺と遊んでていいのかよ」 「そんなの関係ないよ」  杉村はさも不思議そうだった。 「関係ない?」 「野球なんかいつでも出来るし」 「・・・なんか?お前らにとって野球はその程度か」 「苦しそうに野球をやってる仲間を、ほっといてまでやるほどのものではないよ」  ・・・仲間 「そうだよね。秋時?」 「ん?」 「・・・ごめん。秋時はそういう事、考えた事ないね」 「おれはゾウアザラシか?」 「なんでそこでゾウアザラシが出て来るのさ」 「・・・いや、無神経な動物って思ったら、浮かんできた」 「ゾウアザラシって繊細らしいよ」 「おれはゾウアザラシも名乗れねーのか」  五年後、杉村裕海はそのナックル一本で日本中を沸かし、そして世界までも驚かす事になる。 【高校二年・夏】  ストレートの球速が145キロに達した。  夏前には以前のような力強いピッチングが戻っていた。  しかしスライダーのキレが悪かった。以前のように曲がらない。    夏の甲子園予選。  南洋北は順調に勝ち上がっていたが、俺の調子はイマイチだった。  コントロールが定まらない。  一方で杉村が着実に成長していた。  小さな体から繰り出されるフォーシームは、打者の手元で浮き上がっていた。  130キロにも満たないボールに、バッターは振り遅れていた。  先発の俺が六回や七回にフォアボールを連発し始めて、杉村に交代。  杉村が無得点で抑える。  そんなパターンが続いた。    ベスト4まで勝ち上がり、決勝をかけた試合では俺は初回から乱れた。  4 四死球、3失点。  三回までに6点を失った。  三回からマウンドにあがった杉村は、最後まで得点を許さなかったが、結局序盤の失点が響いて3-6で敗退してしまう。  二年の夏。  北校はまたしてもベスト 4止まりだった。
/433ページ

最初のコメントを投稿しよう!