第三章 捜査本部

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  島やジョーと同伴(・・)だったので、通用口ではなく正面エントランスから入署した。 南洋警察署の荘厳な玄関口。 市民の拠り所とはとても思えない。 犯罪者を威嚇でもしているつもりか ……俺には弱者を睥睨しているようにしか見えない。 だからいつもはここから署に入るのを避けて、関係者通用口を使っていた。 だが、今日は島とジョーを裏口から通すのが、何となく気が引けた。 二人にはきちんと敬意を示したくなった。 まあ、単なる気まぐれだが …… それにしても …… エントランスに立つ立番署員の表情が硬過ぎる 。 「おはよう」と声をかけると、100点満点の敬礼が返って来た。 ・・・北の軍隊か すれ違う署員にも違和感があった。 エレベータの扉が開いて、箱から機捜の友川が出て来た。 すぐにエレベータの脇に寄って丁寧に頭を下げた。 いつもは人の顔を見るとすぐに軽口をたたいてくる奴も、今日はえらく礼儀正しい。 そもそも身だしなみがいつもと違う。 「おい、ネクタイの結び目がアゴの下で固定されちゃってるぞ。呼吸できてるか ?」 「シモさん、今日はツッコミなしでお願いしますよ」 機動捜査隊(きそう)のヤンチャ坊主、友川巡査長が慇懃に一礼して足早に去っていった。 3人でエレベータに乗り込んだ。 署内のこんなピリピリムードもずいぶんと久しぶりの事だったが、ちょっと異常だ。 しかも、清掃まで徹底的にしてあるようだ。 きっと、交通課の女警あたりが早朝出勤したのであろう。 ・・・アホか 5Sが大事なのは分かる。 トラブル防止や品質向上に直結するのは、何もモノづくりの会社だけの話じゃない事も承知している ……が なら日頃から徹底しろって思う。 普段やり慣れない事をさせたって、エネルギーの浪費にしかならん。 “ 被害者を救うために ” エネルギーはその一点のみに向けられるべきだ。 清掃にしても、本部のお偉いさんが通りそうなところだけきれいにしてあるってのが、何ともセコくて情けない。 帳場が立つ。 当然、刑事部長(警視長)が来る。 島の情報では、本部長(警視監)も来るかも知れないと言う。 ここの幹部連中にはそれだけで一大事なのだろう。 少しでも好印象を持ってもらおうと必死なのだ。 まずは70人態勢の捜査本部を設置するらしい。 少女の行方不明だけで、これだけの規模の帳場が立つ事案も珍しい。 やはり、日本一に向かって邁進するホワイトベアーズの本拠地なので、県警としては黙って所轄の報告待ちと言うわけにはいかないのか。 蓮見本部長の鼻息は相当荒いらしい。 島曰く、月見酒事件のトラウマが本部長を衝き動かしている …なんて噂まであるという。 厄介な流れだな …… 「ここはずいぶんとキレイにしてるんだなあ。地検の事務所とは大違いだ」 ジョーが本気で感心していた。 その辺りの実態が分かっている島は、ニヤニヤしているだけだった。 「ただのまやかしだ ……取り敢えず課長の所まで案内するわ」 俺はそう言って、真っ先にエレベータから降りて、刑事部屋に入って行った。
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