プロローグ

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 76歳の町内会長は、単身カラス退治に乗り出した。    生ゴミや燃やすゴミを出す日は、早朝4時から収集場を見張り、近づくカラスを竹箒で追い払った。  カラスとの戦いはひと月以上続いた。  カラスは会長が姿があらわすと、公園から出てこなくなった。  ゴミ収集場は徐々に治安を取り戻していった。  会長はすっかりゴミ収集場の管理人となってしまった。  ある朝、ゴミの分別ルールを守らない主婦と言い争いになった。  会長はその主婦に向かって竹箒を振りかざしたと言う。    この頃はすでに心を病んでいたのかも知れない。  そんなトラブルを聞きつけた捜査員が、参考人として本人に聴取を行った。  しかし会長は放火の件は、知らぬ存ぜぬを決め込んだ。    近隣の防犯カメラの記録を見ても、会長の足取りは犯人である事を示していたが、頑なに否認を通した。  実際、ゴミの分別違反の取り締まりや、カラス退治の為に、会長が夜中に公園近辺を巡回する姿は近隣住民にも、何度も目撃されていた。  だからカメラに映っていても、決して不自然な行動とも言えなかった。  会長を犯人とする証拠も目撃者もなく、捜査は暗礁に乗り上げた。  そんな矢先に会長があっさりと自首して来た。 「やっぱり犯人の方がマシです。犯罪者が町内会長を続けるわけにはいかないでしょうからな」   会長は爽やかに笑って、捜査員に頭を下げた。 
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