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2杯目のコーヒーを片手にテラスに出た。
そこに一脚だけ、木製のロッキングチェアが置いてある。
それに身体を埋めて、飲むコーヒーが特に美味い・・・ような気がする。
本当はテラスなんてたいそうな代物ではないが、祥華はそう呼んでいたので俺も真似てそう呼ぶことにしていた。
3LDKマンションの6階。
そこから眺める景色は、何ら特徴もない南洋の街並みだが、何となく好きな光景だった。
週末の夕暮れ時、どこかから少年たちの歓声らしき嬌声が聴こえる。
2キロほど先に、件の緑地公園が見渡せる。
上から眺めるとまるで森のように、樹木が鬱蒼と茂って見える。
この漠然と好きだった長閑な風景も、その片隅で心が折れるまでひとり悶々とゴミの管理に明け暮れた男の悲哀が蹲っていたのだと思うと、これまでとは違う色合いが帯びてくる。
だが、まだ彼には確実にツキがあった。
もし、ゴミ袋の炎が住宅に燃え移り、子供の犠牲者が出ようものなら世間もマスコミも大騒ぎとなり、放火犯は極悪人扱いされる。
これまでの誠実、親切、勤勉の人生なんかが全て否定されたはずだ。
精神鑑定の結果にも納得してくれない。
不起訴なんてもっての外だろう。
まあ、なんともやり切れない結末だったが、この街で起きる事件なんて、所詮この程度。
健全な街、清潔な街、平和な街。
そして市民が、愛してやまない〝しろくま〟の街。
それがここ南洋市だ。
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