第二章 野球バカ

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 勝てば選抜甲子園確定の準決勝。  相手は愛知一位の愛工大名電。  驚異の破壊力を誇る打線と、三人のエースがいると言われる隙のない投手陣が売り物。  事実、このチームには後にプロ入りする選手が五人もいたのだ。  そんなチームを相手に、ヒロは公園で草野球をする少年のように、めちゃくちゃ楽しそうに投げていた。  この大一番。  ヒロが先発する事は、俺や監督を含めチーム全員の総意だった。  この時には、誰もが認めるエースになっていたのだ。  そんなプレッシャーのかかるマウンドで、ヒロはまるで遠足気分のように楽しげだった。    ~ 140キロでも丁寧にコントロールすれば、打たれない ~  この大沢の言葉は訂正が必要だった。  ヒロのボールは140どころか、130キロに届かない。  それでも強打の名電打線を手玉にとっていた。  とにかく、丁寧にコーナーを突く。  フォーシーム、ツーシーム、カーブ。  微妙に握りを変え、インロー、アウトハイ、アウトロー、インハイをしつこく突く。  丁寧に丁寧に根気よく、四隅のフロントドア、バックドアを繰り返す。  ヒロの凄いところは、コントロールだけではなかった。  打者の心理を読む。ウラをかく。打ち気を逸らす。意表を突く。  大沢と一緒に打者との駆け引きを楽しんでいるかのようだった。  この試合。  スコアがまったく動かなかった。  こっちも相手投手に手玉に取られていたのだ。  三人のエース。  その言葉の通り、三人とも俺より速い球を投げ、いくつもの球種を持っていた。  大沢は前の試合で打ち過ぎた。  三人のエースは大沢とまともに勝負する気がなかったのだ。  そして俺は・・・敵になめられていた。  
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