プロローグ

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 ゴミ収集場連続放火事件。    三ヶ月間で同じ収集場から4度火災が発生した。  特に怪我人もなく、公園の木を焦がし収集場の防護ネットを燃やした程度の小さな事件。    手口は灯油を染みこませた新聞紙を、丸めてゴミ袋に入れ収集場で火をつけた単純なものだった。  小学生でも思いつきそうな犯行だ。  しかし、単純だからこそ捜査は予想以上に難航した。    このチンケな事案の解決にひと月も掛かった。  更に報告書の作成にも半月を要した。    とにかく書類が膨大な量になった。  被疑者の精神鑑定が行われた。  それだけで自ずと紙の枚数は随分と増える。    診断結果は重度のうつ病。  結局、不起訴。  何一つ報われる事のない仕事だった。      犯人はその街の町内会長だった。  十年前からずっと会長を続けている、一人暮らしの76歳の男性。  いわゆる人に頼まれたら断れない性格で、大人しいお人好しタイプ。  地元の信用金庫を定年まで勤め上げた、実直な男だった。    ここ数年、カラスの住処となった緑地公園脇のゴミ収集場は、いつも荒れ放題だったという。  毎回、散乱したゴミを収集する作業員から、苦情の報告を受けた市役所の清掃事業課は、町内会長にゴミ収集場の管理指導を行った。    同時期に公園の近隣住民からも、会長のところにクレームが相次いだ。 「会長さん、あれじゃあ不衛生で困りますよ。なんとかなりませんかねえ」    
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