第一章 負け犬

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   空のカップを持って部屋に戻ると、また携帯の着信シグナルが点滅しだした。  ・・・何か言い忘れたか?    祥華 { あまり遅くならないようにね ^_^  ・・・なんだ、祥華か。    三人のグループラインだから、祥華が登場しても不思議はないが・・・  貴 { 夜、ドームでとしの応援だから、多少は遅くなる。試合が終わったら、寄り道せずにすぐに送り届けるから心配無用。  祥華 { よろしくお願いします (^^)  ・・・まったく。  ~ あまり遅くならないようにね ^_^ ~  ~ よろしくお願いします (^^) ~  顔文字ってヤツは、厄介で恐ろしい代物だ。  祥華は、昔から表裏のないカラッとした性格(たち)で、思った事は考えるより先に口に出るような女だった。それは今も変わらないであろう。  ただし、俺以外の人間に対しては、だ。 「あなたは優深に愛おしさを感じていますか?」  三年前、祥華は口元に微笑みを作ってそう言うと、このマンションを出て行った。    〝 どうしたんだ。珍しい物言いだな? 〟    俺は笑顔を真に受けて、首を傾けただけだった。  それっきり二人が帰って来ないなんて、夢にも考えていなかった。  祥華とは南洋大の同級生だった。  三年の時、ゼミで同じクラスになり、俺の方から誘いつき合い始めた。  卒業後もつき合いは続き、俺は警官となり、祥華は地元では中堅規模の精密機器メーカーに就職した。  二十四歳の時、俺は巡査部長に昇格し、本庁の捜査一課に配属された。  祥華とはそれを機に結婚した。  二年後に優深が生まれた。  〝 人を深く思いやれる人になって欲しい 〟  優深の名には、二人でそんな思いを込めた
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