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やわらかな寝床においしいごはん。
そして何より、いつも笑顔で話しかけてくれるパパさまとママさま。
二人にもっと笑みがおとずれてほしい。
そう願い、わたしもめいっぱいはしゃいで、はねまわりました。わたしが無邪気に遊べば遊ぶほど、二人はよろこんでくれるのです。
ハナコの「ハ」が聞こえただけで、ふりの勢いがつきすぎたしっぽは、ちぎれて飛んでしまいそうでした。体は文字通り、飛んでいったものです。
どこに出かけるにも、そばに置いてもらえました。
折り重なって咲く桜、小川での夕涼み、コスモス畑で見上げた高い空、ちらりと鼻に舞い降りた冷たい粉雪。
どれも昨日あったことのように、思い出すことができます。
ある日、パパさまとママさまがテーブルで額をつきあわせ、低い声を交わしていました。今まで、聞いたことのない音色です。
気になってママさまの足もとへいくと、あごの下をなでられました。
「心配してくれたの? ありがとう」
ほんの少しうかべた笑みは、すぐに消えてしまうではありませんか。きっと深刻なお話なのでしょう。
「ハナコが子供みたいだね」
くちびるからもれるのは、細く弱い声。
パパさまとママさまは、子供を望んでおられるのに、どうも上手くいかないようでした。おそまきながら、わたしはこの家に招かれた理由がわかったのです。
お二人の寂しさを埋め合わせるために、拾われたのだと。
それからは少しでも人間の言葉を覚えようと、話かけられる以外にも、お二人のお話に耳を傾けるよう心掛けました。
おかげで「まて」や「おて」「おすわり」といったイヌ用の言葉以外にも、たくさんの言葉を聞き分けることができるようになったのです。
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