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 さて、わたしが新たな役目を果たすべきお人、ケイタさまの登場です。  ケイタさまは通常に生まれてくるよりも、ずっとずっと小さくお生まれになったと聞いています。  とてもあわただしく病院へと運ばれたママさまが、赤ちゃんを連れずに帰ってきた姿を目にしたときは、戸惑いました。  どんな顔をしていいのやら。  しっぽをふっていいのかしら。そばにすりよってもいいのかしら。迷うわたしに、ママさまは膝をつくのでした。 「赤ちゃんはね、少し病院でようすを見てから、うちにくるからね」  わたしの首すじを抱えこむママさまの腕はかすかにふるえ、わたしはぬれた目じりをなめることしかできませんでした。  安産の守り神と呼ばれるイヌのわたしがそばにいながら、なんということでしょう。わたしは自分の力不足と不甲斐なさに、うちひしがれました。  しかし、わたしがしょげている場合ではありません。このときです。わたしがわが身に代えても、ケイタさまのお役に立とうと誓ったのは。  家にやってきたのは、なんともきゃしゃな、わたしの半分のめかたもないような赤ちゃんでした。  イヌなのに重さがわかるのか、ですって。  いえね、お二人がそうおっしゃっていたのを、耳にはさんだのですよ。    これはわたしがお守りしなくては。  大いに奮い立ちました。なんといっても、わたしは姉なのですから。  ケイタさまの助けになろうと、片時も目を離しませんでした。  夜泣きにはよりそい、起きているあいだはいっしょに遊び。すうすうと軽やかな寝息に耳を立てながら、わたしもうとうととしたものです。  ケイタさまが目を覚ませば、ママさまの足もとでしっぽをふりお知らせをします。そのたびに「ありがとう」と頭をなでてもらいました。そして、ケイタさまのもとにいっしょにかけよるのでした。  わたしのちっぽけな努力が足しになったのでしょうか。  ケイタさまの大きくなる音が、めきめきと聞こえてくるようでした。  あっという間に、わたしのめかたをこえて、あんなに気をもんだのがうそみたいに、丈夫にお育ちになりました。
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