6話 刹那の勝負

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6話 刹那の勝負

「部長!がんば……………、え?」 俺はとにかく部長を応援しようと声を張り上げた。でもそれは長く続かなかった…… バン! という音が試合開始と同時に狭い会長室に響いた。 俺はその音の正体が分かっていた。でもなぜかその時、俺はその音の正体が分からなかった……、いや違う分かりたくなかったんだ。 そう、その音の正体は部長の拳が机に叩きつけられる音だった。 「えっ?!」 誰かが驚く声が聞こえたが、俺はそれがだれの声なのかよく分からなかった。部長だったかもしれないし俺だったかもしれない、もしかしたら若鷺源蔵だったのかもしれない。 でも、ひとつはっきりしているのは部長が若鷺源蔵に負けたことだ。 「何故……何故だ?!」 部長は戸惑っていた。俺だってそうだ今にも気が狂ってしまいそうだ。 だってこの試合で負けたら美術部は無くなってしまうんだ。 俺たち二人が戸惑っていると若鷺源蔵は、 「なにを驚いているんだ?こんな結果初めから分かりきってたことじゃねーか」 俺はそう言われて思い出した。試合の前俺が気付いた部長と若鷺源蔵の違いの事を、 その違いは………腕相撲の価値観だった。 部長は腕相撲をゲームとして見ていた。だが若鷺源蔵は違った。若鷺源蔵にとって腕相撲とはいわば人生そのものだった。 そうなんだって彼は10年前の腕相撲が大ブームになった始まりの世代からの先人だ。いくら60代のお爺ちゃんとはいえ弱いわけがない! 部長は決定的なことを見逃していたのだ。 だけど部長はまだ気づかない自分のミスに 「僕は皆の期待に応えなければならないのに!なのになのに……こんなあっさり負けるなんてありえないだろ!!」 「部長………」 俺は部長を宥めようと思って声を掛けたが、 「うるさい!!!」 でも俺の腕は振り払われてしまった。今の部長はまるで駄々をこねる子供みたいだった。
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