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とても哀愁漂う切ない声だった。
「それってやっぱり、僕なんかに好かれているのは思いっきり迷惑だということかな?」
「……私に聞かれましても…」
途中で言葉を濁した本丸さんは、すぐに明瞭な口調で返答した。
「あくまでも客観的に、一般論として言わせていただきますと」
「うん」
「副社長は国内屈指の大企業の御曹司です。普通の家庭で育った身からすれば、そんな方に恋心を抱かれている事に気付いたらおそれ多いと感じてしまうのではないでしょうか」
「……僕の身分が相手を萎縮させてしまっているということ?」
「その可能性は大いにあると思います」
「だったら僕は若宮商事の社長の息子じゃなく、他の家庭の子として生まれたかったな…」
彼はため息混じりに気持ちを吐露した。
「そしてその人と同じ立場で出会い、社会人として切磋琢磨しながら共に成長して行きたかった。苦しみや喜びを分かち合いたかった。何を贅沢な事を言っているのかと思われてしまうかもしれないけれど、一番欲しい愛が手に入れられないのだとしたら、自分の置かれた環境をついつい呪ってしまうよ」
そこで副社長は黙り、本丸さんも何も言葉を返さなかったので、階段室は静寂に包まれた。
「……お引き留めしてすみませんでした」
かなりの間の後、それを破ったのは本丸さんだった。
「そろそろ行きませんと」
「…そうだね」
その言葉を合図に二人が歩き出したようなので、私は慌てて踊り場からフロアへと逃げた。
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