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「あ」
するとそこで本丸さんが私の存在に気付いた。
いつの間にか顔だけではなく、体全体壁から出てしまっていたようだ。
彼女の視線を追うように振り向いた副社長は、私の姿を確認した途端険しい表情になる。
『え?』と思っている間に彼はツカツカと私に歩み寄って来た。
「聞きましたよ外田さん。いくらなんでも注意力散漫なんじゃないですか?」
私は固まったまま副社長を見上げた。
「あんなに大きくて重量のあるワゴンを押しているんですから、常に周囲には気を配っていただかないと」
信じられなかった。
「場合によっては本丸さんはもっと酷いケガを負っていたかもしれないんですよ?」
彼が私にこんな物言いをするなんて。
「副社長」
そこで本丸さんも素早く私達に接近し、言葉を挟んで来た。
「私を気遣って言って下さっているのでしたら本当に大丈夫ですので。彼女もわざとやった訳ではないですし、もうその辺で…」
「いや。僕の気が済まないんだ」
副社長はその言い分をはね除けるように鋭く言葉を発すると同時に、彼女に向き直り、続けた。
「よりにもよって君が傷付けられるなんて…。心臓が止まるかと思った」
私は大いに混乱していた。
副社長に怒られた…。
とてもキツイ、ヒドイ事を言われてしまった。
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