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教会の修道士たちが暮らす建物を離れると、解放感はさらに強まりトゥッツィリアは上機嫌になっていた。
小道を抜けた先の庭園に明かりはなく、闇の吹き溜まりに変じている。昼には美しい花弁を揺らす花々の顔は、どれも判然としなかった。
庭園の奥まった部分、薬草園につながる道があるのを知っている。
以前そちらをのぞいたときは、これから苗を植える予定だと素人のトゥッツィリアでもわかる状態で、畝だけが整えられていたのだ。
もう、なにか育てはじめているかもしれない。
そちらにも足を運んでみようか――闇のなか、トゥッツィリアが進んだ薬草園への道は暗く、これといってなにも確認することができない。薬草園は周囲に塀が巡らされているためか、しめった草花のにおいが立ちこめていた。それはトゥッツィリアには芳香に感じられ、自然と笑みが浮かんできている。
そこにうっそりとした明かりを手に現れたのは、上背のある修道士だった。
「え……っ」
誰なのかすぐにわかった。
教会が世話する孤児たちが、影で「怪人」と囁き合っている男である。
これまでに二度ほど姿を見かけたことがあって、トゥッツィリアの目は彼を異名通りだととらえていた。
いまも薬草園に立つその姿は、孤児たちが囁くとおり怪人そのものに映る。
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