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寡婦である、と周囲に広められたトゥッツィリアが、その後どんな身の振り方をしてどのように暮らしていくのか。どんな人生が待っているのかも。すべて見当がつかないでいる。
――学ぶ心づもりでいるといい、トゥッツィリア。
女に学はいらぬ、という持論の父の言葉に、トゥッツィリアはそのとき我が耳を疑った。
――不要なものであっても、いずれおまえを慰めるかもしれん。
女にいらぬ学問をしろ、と父が持論を曲げていうのは、トゥッツィリアには衝撃だった。もうおまえは女に、妻に、母になることはない。そう言外にいい渡されたようなものである。
カスパール伯爵家において、父は絶対だ。父がいうなら、トゥッツィリアはしたがうしかない。遊学も、学問も、死者との婚礼も。
わずかな荷物をたずさえ侍女とともに生家を出たが、教会に着くなり、侍女は生家に戻っていった。父の手配である。それではトゥッツィリアは抗議できない。ずっと仕えてくれていた侍女は、トゥッツィリアをひとり教会に残すことに不満そうだった。
ひとりになったトゥッツィリアは、教会が面倒をみている孤児に混じり日を送るようになった。
熱心な信徒たちよりも、トゥッツィリアの気を引こうとする孤児たちといるほうがずっと気が楽だ。
孤児たちは国の内外から集まり、養い親や奉公先が見つかると教会を出ていく。
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