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彼らは貴族の子女であるトゥッツィリアに、浮き足だった振る舞いや言動を望んでいない。孤児の面倒を見るのはともかく、一緒になって戯れはしゃぐことにはいい顔をしなかった。
ましてや、日が落ちてからふらふら出歩くなど、もっての外だろう。
春に生家を発ち教会に滞在するようになって以来、トゥッツィリア自身、夕餉以降に部屋を出たことはなかった。
はじめて足を向けた部屋の外、その敷地は夜陰に飲みこまれていて、進むのに躊躇したりもした。
孤児の話してくれるものには、幽霊譚も多かった。
教会地下に遺体を安置する場所があり、裏手に大きな墓地があるのだからそれもしかたない。とはいえ、ひとりで出歩くときに思い出したい内容ではなかった。
夜の散歩のなかで怖い話を思い出し怖じ気づいたところで、トゥッツィリアはもう部屋に戻る気はなかった。
誰にも見咎められないだろう場所を、気の向くまま歩く。ただそれだけでも気持ちが高揚した。緊張や勝手に抱いた恐怖が消え、上機嫌になるのはすぐだった。解放感は予想しなかったほどだ。
そして散歩した結果、怪人の姿や物置小屋での情事を目撃することになったのだった。
怪人の部屋で椅子から腰を上げ、随所に積み上げられた書物をトゥッツィリアは適当にめくった。
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