夜の散歩

3/10
前へ
/98ページ
次へ
 裾の長い外套は修道士たちが身に着けるもので、肩口のフードを彼は目深に被っていた。そこからのぞくはずの顔は、白くのっぺりした仮面に隠されている。しかも手には手袋がはめられている。素肌の一切をその怪人は隠しているのだ。 「どうして……」  夕暮れなどとうに過ぎ、闇があたりを浸食する時刻である。彼に興味緒抱いているおさない孤児たちは、もうベッドに入るよういわれている時刻だ。  暗い薬草園では、月と星、怪人の持つランタンだけが頼りだった。  十分とはいえない光源に浮き上がるような怪人の姿は、トゥッツィリアには物珍しく、また禍々しく、だが好奇心を刺激するものだった。  子供たちのなかには、彼を本気で怪人だと思い怯えている顔もある。  教会のものに彼について尋ねれば、他人への詮索をたしなめられた。怪人について子細がつまびらかにされないことで、子供たちの怯えは加速しているといっていい。  しかし事情があってのあの風体なのだろう、彼は曲がりなりにも修道士だ。おなじく修道院の敷地に暮らしているのだから、危険はないはずだ。  怪人はざくざくと音を立て、薬草園を大股に闊歩する。  苗木を確認し、手袋のまま土をかき、怪人は薬草園の手入れをはじめた。  フードから、するりと一房の髪が垂れる。ランタンの明かりでは、それが金か銀か見極めかねた。髪の色が気になって首をのばし、トゥッツィリアは身をひそめていた柱の陰で目を凝らす。     
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加