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「それで、本は確かに受け取ったが……まだなにか?」
トゥッツィリアに帰ってもらいたがっているのがわかる。彼はその態度を隠すつもりはないらしい。仮面を被っているのに、そういう感情が伝わってくる。そのことがおもしろかった。
彼の気持ちをわかっていながらも、トゥッツィリアは笑顔を浮かべていた。
「お食事中、申しわけありません。べつの本をお借りできないかと……」
「図書室があるだろう」
「先日見させていただいたときに、読んでみたいと思ったものがあるんです。お借りしてもよろしいですか?」
嘘ではなかった。その書物がどの位置にあるか、というのも覚えている。
「あまりここに出入りは」
「ええ、人目も確かめております。薬草園も墓地も無人でしたし、見咎められていないと思います」
男性の住まいに出入りするなど、見つかればくどくどと説教されるのは目に見えている。
「まとまった数をお借りしてもよろしいですか?」
「そういう意味じゃ」
「お肉、おいしかったですか?」
怪人はまたため息をついた。
「お借りしたら、すぐ出ていきます。お食事の邪魔はいたしませんわ」
「……さっさとしてくれ」
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