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小走りでトゥッツィリアは二階に向かった。肩にかけていたストールを取り、目星をつけていた書物を数冊くるんだ。書物を動かすと、わたぼこりが踊るように動く。ベッドの周辺も書物が積まれ、うかつに寝返りを打てば書物が雪崩を起こしそうなありさまである。
階下に降りたトゥッツィリアは、腕を組み木戸の横に立つ怪人に笑顔を向けた。
「ありがとうございました! こちらをお借りします」
「返すときは、戸の前に置いてくれればいい。わざわざ手渡しにしなくていいから」
不機嫌な声にうれしくなる。教会ではほかには誰もこんな声を出さないのだ。
「突然お邪魔して申しわけありませんでした、それでは失礼いたします」
アイオンの返事も聞かず、トゥッツィリアはおもてに出た。
視界には墓地が広がっている。明るいせいか怖くなかったが、静謐であるべき場所をぱたぱたと進む自分がひどく場違いで、不作法な気になってしまう。
アーチ状の屋根の下で、トゥッツィリアは墓地のほうに向き直った。
「……もしかして、墓守なのかしら」
言葉が漏れ出ていた。
ひとりで過ごす時間の多いトゥッツィリアは、ひとりごとが最近増えている。落ちた言葉は、風に流され消えた。
彼が教会の戒律を遵守しているようには思えない。首をひねりかけると、今度は物置小屋でおこなわれていた醜態がよみがえった。トゥッツィリアや外部のものが知らないだけで、教会内は清廉潔白ではないのかもしれない。
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