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薬草園で足を止め、通り過ぎようとしていた物置小屋に目をやった。
補佐官と修道女が愛し合っているなら、それを貫いてはいけないのだろうか。信仰の前では、彼らの愛情も取るに足らないものなのか。
――祈りの時間に抜け出して愛を確かめ合うくらいなら、信仰の道から出たらいいのに。
ストールでくるんだ書物がずり落ちてくる。抱え直し、トゥッツィリアは止めていた足を動かしはじめた。
――私も。
――いままでのすべてを、捨てればいいのかもしれない。
「他人事じゃなくなると、いきなり難しくなるわね」
気が重くなったトゥッツィリアが見上げた空は、いまにも雨が降りそうに濁っていた。
雨期が近いのだ。もうじき空気が湿り気を帯びるようになって、独特のにおいを放つだろう。
雨期の間も自分が教会にいるのかどうかも定かでなく、先行きの不安定さに気持ちがふさぎかける。
トゥッツィリアは、部屋へと駆け戻っていった。
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