夜の散歩

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 仮面がこちらを向いたような気がして、トゥッツィリアはとっさに身を引いた。  しかし気のせいだったのか、怪人の手はかたわらの雑草を引き抜きはじめた。  物陰に身をひそめ、息を吐く。緊張に胸がどきどきしている。鼓動が首のあたりにまで広がっていた。  ――相手の様子をうかがって、挨拶をしてみようか。  一度隠れてしまうと、なかなか顔を出しにくい。  日が落ちてから部屋の外をうろつくことに、教会の面々はいい顔をしなかった。それは自分から顔を出せば、叱責される可能性もあるということだ。声をかけるのにどうも尻ごみしてしまう。と同時に、祈りの時間に部屋を出ている彼なら、口うるさくしないだろうとも思う。  ――こんばんは、こんな時間にお手入れですか?  たったひとことだ。  怪人怪人と子供たちは口さがなくいうが、彼は教会内で暮らしている。着けた白い仮面のせいで腰が引けてしまうが、せいぜい奇人変人の類であって、他人に害を与えはしないだろう。  怪人に声をかけるべく、トゥッツィリアは物陰を出ようとした。  おなじくして、怪人もかがんでいた体勢から立ち上がった。  その顔が一方向を向いている。  なんだろう、とトゥッツィリアもそちらを見た。     
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