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トゥッツィリアは母が持たせてくれた漆黒のストールを頭に巻き、金の髪を隠すと、資材の陰で身体をちいさくした。身を隠しながらも、素直に回廊で行き違えばよかったかもしれない、とはやくも後悔している。
こそこそと話す声が近づく。内容の聞き取れない、ぼそぼそと低くした声だ。誰のものかわからないが、聞き覚えがある。
さらに近づく声がやけに親密そうに聞こえて、トゥッツィリアは自分の口元を手で覆っていた。
現れたのは、司祭の補佐官を勤める男と、若い修道女だった。
案外祈りをまっとうせず、部屋を出るものは多いのかもしれない。トゥッツィリアは補佐官が手にしたちいさな明かりから顔を背けた。
見つかりませんように、というその祈りは、見事天に通じたようだ。
彼らはすたすたとトゥッツィリアの横を通り過ぎ、薬草園へと足を向けていった。
後ろ姿を確認したトゥッツィリアは、彼らが手を取り合っているのを目にして声を漏らしそうになる。
しっかりとにぎられた手は、トゥッツィリアが目にしてはいけないものだった。
ぎゅっと目をつぶってみるが、それを忘れることなどできない。胸の奥が煮え立っているかのようだった。
薬草園の一角、物置小屋に彼らは足早に入っていく。
トゥッツィリアはくちびるを噛んでいた。
あたりをうかがう。
ほかには誰もいない。
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