雨の帰路

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雨の帰路

 思っていたよりもはやく、雨期はやってきた。  信仰の徒である教会の面々は多忙だ。  教義を学ばねばならないし、神に祈らねばならないし、教会を訪れる信徒や貧しいものたちのために働かなければならない。  彼らと違い、トゥッツィリアは自由な時間が多かった。  孤児たちとの時間は、雨期に入るとほどなく減っていった。新顔の修道士が増え、そのなかの何名かが孤児たちの教師として名乗り出てくれた。奉公することになったときに困らないよう、彼らは知識を授けようとしていた。  食堂で顔を合わせる顔は、はやくも何人か入れ替わっている。トゥッツィリアに本を読んで、とねだった少女も、すでに教会を後にしていた。すぐに読み聞かせをしてやらなかったことに罪悪感があり、トゥッツィリアはかすかな胸の痛みを覚えていた。  雨が続き部屋にこもったトゥッツィリアは、辞書を片手にアイオンから借りた書物に向き合って過ごすことが多かった。かすかに耳に届く雨音のなかの読書は、案外はかどるものである。     
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