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      ◆   ◆   ◆  とある時、とある場所で、とある者が言った。 「やれやれ。これでやっと檻が見つかった」  ため息と共に吐き出される。 「これで檻子と仇子が同化することができれば、あわよくば仇子を現世から葬ることもできような」 「同化ができれば、な。その前に檻が死んでしまってはどうしようもない」  魂が身体に根を張ることができれば、仇子は身体を得る。  幾星霜の時を生きる神の御魂と、神にすれば瞬きほどの時しか生きない御魂。もし同化できた時、どちらの魂の力が勝るかは歴然だ。  一つの身体に二つの魂は、いらない。 「同化できずとも、仇子には檻が朽ちた場合のことは告げおいた。仇子が禁生の何者かに宿るのは決まっている。そう言霊で縛ったのだから」 「檻子は言わば、仇子を葬る為の人身御供(ひとみごくう)……」  別の神は遠くの気配を探るように目を閉じる。 「しかしなぜ、仇子はあの愛宕山(あたごやま)()(わらわ)を選んだのか……」 「そのようなことはどうでも良い。ひとまずは森を焼かれる心配がなくなった」  それもそうだと、誰とも知れず安堵の息が吐かれる。  ――それに、仇子は何ゆえに彷徨っていたのか。  目を閉じていた神は、瞼を持ち上げた。  狐の青い炎を操り、漆黒の下に天狗の黄金の髪を秘める少女の面影を思い出す。  その中に宿る仇子の気配が、ゆっくりと沈んでいくように消えたのがわかった。 「――仇子は檻の中で眠ってしまったか……」  あれではまともに同化などはできまいな……。  微かな声は、誰にも捉えられることなく、空気に溶けた。       ◆   ◆   ◆
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