第二章・―閉館―

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 私は此処から新たな一歩を踏み出す、沢山の思い出が詰まった過去と共に……。    もう思い残す事は何もなく、ただ、これからは前を向いて歩いて行けるのだという想いだけが支配して、とても充実した気分であった。    ゆっくりと、長年開けてきたドアの、硝子部分にかかっている札を、開館から閉館へとひっくり返す。    途端に背後で、館内で、沢山の拍手とお礼の声が聞こえた気がして涙が溢れて止まらなくなる。    ああ、ありがとう。本当に、ありがとう。今まで沢山世話になったね……。  私は映画館に背を向ける。  二度と振り向かないよう、決意を込めて歩き出す。    今夜私は、映画館の館主という肩の荷を、ようやく下ろせたのだ――。
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