『映写奇談』

第一章・―思ひ出―

　目映い朝日に照らされ、ふと目を覚ましたのはいつもの時間だった。

　今日は絶好の空模様で、落ち着かない気分でいた私は、それに少しほっとする。
　穏やかに過ぎる朝の一時をいつもよりゆったりと、噛み締めるように瞳をとじた。

　今日は私にとって、今まで生きてきたどんな日よりも特別なものになるだろう。
　それが悲しくもあり、また嬉しくもある、実に不思議な感情が混在している。

　明日になればもう、こんな時間に起きる事もなくなるのだ。
　今日は私が何十年も勤めてきた映画館が、ようやく役目を終える日なのだ。

　支度を整えて家を後にすると電車を乗り継ぎ、すっかり見慣れた映画館を前にする。