第一章・―思ひ出―

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 昔ながらの漆喰で塗り込められたような壁は、穏やかに町の風景に溶け込んでいる。  静かに佇む建物は所々剥げたり割れたりと、なかなか様になっていて、この町に一層レトロな雰囲気を醸し出すのだ。    映画館を見上げ、被っていた鳥打ち帽を持ち上げると笑いかける。  私の青春は此処にあった。  良い事も、悪い事すら含めて色々あった映画館だ。    映画館と共に生き、共に笑い、共に泣き、共に苦労を分かち合ってきた。  鳥打ち帽を被り直すと、心なしか映画館が笑ったように見えて、込み上げる涙を堪えるようにして中へと滑り込む。
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