第一章・―思ひ出―

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 静かで少し冷たい空気が好きだった、暗い中を勝手知ったる何とやらの要領で歩く。  此処で様々な人達と出逢い、別れ、時には仲良くなっていったのだ。     古い映写機のある映写室へと入り、そっと撫でて感触を確かめる。  昔を懐かしむ訳ではない、時代の流れを恨む訳でもない。    ただ、私と映画館が、早過ぎる時代の流れに置いて行かれただけなのだ。  映写室を後にすると、チケット売り場を開いて映画館も開場する。  大勢が一度に入るのではない、たまにぱらぱらとくる程度の、ささやかな客入り。    それでも構わない、今日という特別な日にきてくれたお客様のために、精一杯の感謝を込めていくだけだ。
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