第二章・―閉館―

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 思えば色々な事があった……。    映画館で走り回る子を叱り付ける、近所でも評判の頑固親父。  泣き止まない子を、映画に夢中な両親の代わりとなって、この映写室であやした事もあった。    近所の子が興味津々で映写室に入るのも咎めず、一緒に回して放映した事もあった。    他にも数えきれない程の思い出が、この映画館には溢れている、この両手にも掴みきれない程に――。    堪え切れず歪む視界に入るのは、かつて賑わった映画館の光景だった。  観客席に、横手の階段に人が溢れ、皆少年少女のように瞳を輝かせて映画に観入っている。    幸せだった、私はとても果報者だ。
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