瀬戸内君との、始まり

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 ところで瀬戸内君は、保健室を出る前にちゃんと私の顔を見ただろうか。  瀬戸内君以上に真っ赤になっているであろう、私の顔を。  そっと、自身の唇に触れてみる。  さっきの瀬戸内君の唇に触れた、自身の唇を。 「……だけど、ちょっと強引な瀬戸内君は、それはそれで格好良かったよ」 「あれ。舞子先輩。今日はずいぶん遅かったっすねー」  熱に浮かされたようなふわふわとした気分で美術室へ向かうと、中には後輩の琴音ちゃんしかいなかった。 「あれ? みんなは」 「今日は天気がいいから、外に写生行きましたー。自分は次のコンクール抽象画で行くつもりなんで、ここで作業してるっす。……ああ、でも三年生の半分くらいは、さっさとコンクール用作品仕上げて、受験勉強してるみたいっすけどね。まだ五月なのに気の早いこって」 「まあ、うちの美術部の引退は、9月の文化祭後だからねー。それから受験勉強専念するのは大変だから、部活に顔出さなくなっても仕方ないよ」
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