退屈と抑圧、幸せの在り方

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 骨が折れる音が心地良い。  綺麗に作った模型は、壊す時が一番楽しいだろう。時間を掛ければ掛けるほど、壊す楽しみは膨れていくものだ。  けれど私は、それらを壊さなかった。  何故なら、壊してはいけないと言われていたから。そう教わっているから。教えられたそれを、守らなければいけないから。  肉が潰れる光景は、心が洗われる様だ。  シャボン玉は消える姿が好きだ。積み上げられたモノが、一瞬にして無駄になる。その瞬間こそが美しい。  私は努力家と言われた。  崩壊させる為には、一度積み上げなければいけないから。高く正確に組み立てる程に、徒労に終わる瞬間が、崩れ落ちる瞬間が待ち遠しくて狂いそうになる。  必ず無駄になる、そう信じて費やす時間は尊いものだ。  断末魔の絶叫が、私にこの上無い幸福を感じさせる。  生きたいと強く願う人間の目が、言葉が、表情が滑稽で、可笑しくて可笑しくて堪らない。人生とは悲劇で惨劇であるほどに価値を持つ。最期まで希望と言う玩具を大切にしている人ほど特に、愉快な最期を演じてくれる。  私もそうだ。  きっと私の最期も、相当に愉快なモノだろう。  だってこんなにも、大切にしてきたのだから。この玩具に縋る私の姿は、他の誰よりも滑稽だから。
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