雨と犬と私

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***  月曜日の朝は、どこもかしこも人だらけ。  スーツを着た男の人がバスを待つために、ズラリと並んでいる横を通り過ぎて。  小さな頃から知っている近所のおばあちゃんたちがお散歩をしていると、「おはよう」「おはようございます」いつもと変わらない毎日の朝。  曲がり角を曲がると、焼き立てのパンの甘い匂いがしてくる。「おはよう」パン屋のおばさんが笑顔で近づいてきて、「これ、形が崩れちゃったの。みんなでお食べ」そう言って、ふにゃっと曲がったいびつな形のクリームパンを3個くれた。学校へ持っていって、休み時間に友達と食べよう。  そのまま歩いていると、見たことのある後ろ姿に気付いた。  一昨日の、黒い犬だ!私は思わず、駆け寄った。 「熱は下がったの?」 「うん。そっちは?」 「私も下がったよ」 「なら良かったね」 「うん。そっちもね」  たったそれだけの会話だったけど、私も黒い犬も、クスクスと笑っていた。黒い犬の頬には、絆創膏が1つ貼ってあった。 「それ、どうしたの?」 「帰ったら、父親に叩かれた」 「えぇっ、ひどい」 「母さんを心配させた罰だって」  それなら仕方ないね、と、また私たちは笑った。  学校の門に着くまで、私たちは並んで歩いていた。  銀色の細いネックレスは、おばあちゃんの形見だということ。  それをお姉さんが欲しがって喧嘩になって、カッとなって家を飛び出したこと。  けど行く場所もないから、小さい頃に遊んでいた公園に来てみたこと。  気が付いたら、学校でよく見る女の子が隣に座っていたけど、話したことがないから何を言えばいいかわからなかったこと。  耳を真っ赤にしながら、照れくさそうに話していた。 「私も、小さい時によくあそこの公園で遊んでいたのよ」 「うん、知ってる」 「そうなの?」 「毎日会ってたよ」 「そうだったんだ…」  彼は絆創膏のついた頬をプクッと膨らませて、しばらく下を向いていた。けど、しばらくして、パッと顔を私の方へ向けて、こう言った。 「まだ名前を知らない」 「あ、そういうえば私もよ」  その言葉と同時に、お互いがカバンの中からスマートフォンを取り出した。  それを見て、2人で笑っていた。 【終】
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